2008年01月14日
スポーツと性格②~状況主義
前回の特性論に続いて、今回は状況主義です。状況主義とは、我々が取る行動や反応は性格によって決定されるのではなく、我々が置かれている状況によって決定されるというものです。
前回、パフォーマンスの良し悪しに占める性格という要因は29%という研究があると書きましたが、この状況主義という立場でも同様の研究があります。特性論ではパフォーマンスに占める要因は性格とその他でしたが、状況主義では性格と状況の2つの要因があるので、要因は性格、状況、性格と状況の相互作用、その他の4つになります。その研究では、性格、状況、その相互作用の合計がパフォーマンスの良し悪しに占める割合は半分にも満たないという結果になっています。正確に状況という要因を足しても、やはりその他の要因が大きいという結果は、特性論とも変わらないようです。
状況主義は、その状況に置かれた個人のふるまいを重要視することから、普段の性格は考慮する必要はなくスポーツ時の気分を測定すればよいのではないか、という考えがあります。その気分を測定するPOMS(Profile of Mood States:気分プロフィール検査)というものがあるようです。これは個人の緊張、抑鬱、怒り、活気、疲労、混乱の6つの尺度を測定するものです。もともとは精神病患者の状態を測定するためのものがスポーツ心理学に広まったそうです。おそらく、ヒトの気分はこの6つの因子によって構成されていると考えられたものだと思います。この検査の結果を一流選手とそうでない選手とで比較した研究があります。その結果は、一流選手は緊張、抑鬱、疲労、混乱の得点が低く、怒りがやや高く、活気がかなり高い、というものになりました。このような結果になることは、その他の多くの研究からも支持されているようです。
しかし、一流選手でもこのような測定結果にならない人もいます。それは、この研究は一流選手とそうでない選手のPOMSの得点の平均を比較していることから、個人差が覆い隠されているためだという指摘があります。
また、個人的な意見ですが、好ましいスポーツ時の気分が明らかになったとしても、その気分になるようにすることはできるのでしょうか。これも、特性論と同様で難しいものだと思います。
これを書いていて、1つ思い出しました。去年のウィンブルドンで、フェデラーがチャンピオンシップポイントを決めた瞬間に泣き崩れる場面がありました。あれを見て、フェデラーは精神的に不安定だと思う人もいると思います。しかし、状況主義的な立場から考えたら、泣き崩れたのはテニスが終わった時なのだから、少なくともテニスをしている時は精神的に不安定だと言うことはできないんじゃないか、と思いました。
次は、社会的学習理論について書きたいと思います。
前回、パフォーマンスの良し悪しに占める性格という要因は29%という研究があると書きましたが、この状況主義という立場でも同様の研究があります。特性論ではパフォーマンスに占める要因は性格とその他でしたが、状況主義では性格と状況の2つの要因があるので、要因は性格、状況、性格と状況の相互作用、その他の4つになります。その研究では、性格、状況、その相互作用の合計がパフォーマンスの良し悪しに占める割合は半分にも満たないという結果になっています。正確に状況という要因を足しても、やはりその他の要因が大きいという結果は、特性論とも変わらないようです。
状況主義は、その状況に置かれた個人のふるまいを重要視することから、普段の性格は考慮する必要はなくスポーツ時の気分を測定すればよいのではないか、という考えがあります。その気分を測定するPOMS(Profile of Mood States:気分プロフィール検査)というものがあるようです。これは個人の緊張、抑鬱、怒り、活気、疲労、混乱の6つの尺度を測定するものです。もともとは精神病患者の状態を測定するためのものがスポーツ心理学に広まったそうです。おそらく、ヒトの気分はこの6つの因子によって構成されていると考えられたものだと思います。この検査の結果を一流選手とそうでない選手とで比較した研究があります。その結果は、一流選手は緊張、抑鬱、疲労、混乱の得点が低く、怒りがやや高く、活気がかなり高い、というものになりました。このような結果になることは、その他の多くの研究からも支持されているようです。
しかし、一流選手でもこのような測定結果にならない人もいます。それは、この研究は一流選手とそうでない選手のPOMSの得点の平均を比較していることから、個人差が覆い隠されているためだという指摘があります。
また、個人的な意見ですが、好ましいスポーツ時の気分が明らかになったとしても、その気分になるようにすることはできるのでしょうか。これも、特性論と同様で難しいものだと思います。
これを書いていて、1つ思い出しました。去年のウィンブルドンで、フェデラーがチャンピオンシップポイントを決めた瞬間に泣き崩れる場面がありました。あれを見て、フェデラーは精神的に不安定だと思う人もいると思います。しかし、状況主義的な立場から考えたら、泣き崩れたのはテニスが終わった時なのだから、少なくともテニスをしている時は精神的に不安定だと言うことはできないんじゃないか、と思いました。
次は、社会的学習理論について書きたいと思います。
2008年01月06日
スポーツと性格①~特性論
スポーツと性格との関係について、3回に分けて書きます。3回というのは、性格が決定される要因について3つの立場があるので、それ毎に書くためです。
今回書くのは、特性論から考えたスポーツにおける性格です。特性論とは、簡単にいえば性格は遺伝によって決定されるものであり、ヒトの行動は主に生物学的な要因によって影響されるという理論です。変化することがない遺伝子によって決定されることから、そのヒトの性格は持続的で安定している、また、個人間の性格の差は遺伝子が異なることによって存在するということになります。
特性論で有名なものとしては、アイゼンクの理論があります。これは、ヒトの性格は外向性の因子と神経質傾向の因子の2つだけで説明できる、という理論です。外向性とは活発性と社交性と衝動性の程度を表す性質であり、神経症傾向とは情緒の安定性を表す性質をいいます。どうして活発性と社交性と衝動性が外向性という1つの因子にまとめられているかというと、これらの3つには相関性があることが因子分析によってわかっているからです。これは、社交性が高い人は活発性も衝動性も高いということです。後の研究から、アイゼンクは精神病傾向という因子(頑固さ、優柔不断さ)を付け足し、性格は3つの因子で説明できる、としています。これらの3つの因子の測定はEPQ(アイゼンク人格検査)という質問紙による性格検査によって行われます。
もう一つ有名なものは、キャッテルの理論があります。キャッテルは、性格を完全に説明するには3つの因子だけでは足りないと考え、因子分析によって16の因子を特定しました。アイゼンクのERIと同様に、これらの因子を測定するための16PFという性格検査があります。
この2つの理論はヒトの性格すべてを説明するための理論ですが、性格の一側面だけに着目した理論(領域限定理論)も数多くあります。
スポーツ心理学では、これらの理論の立場からスポーツ競技者と非競技者、また、優秀な選手とそうでない選手との間の性格の違いなどについての研究がおこなわれてきました。
競技者と非競技者の性格の違いでは、EPQにおいて競技者は外向性と精神病傾向が高いという結果が得られたものや、16PFにおいて競技者は独立心と客観的の因子が高く、不安の因子が低いという結果が得られているものがあります。しかし、これらの結果を支持しない研究も多くあり、一貫した研究結果は得られていません。競技者と非競技者との性格の違いはないと言ってもいいのではないかと思います。
優秀な選手とそうでない選手との性格の違いについては、アメリカの大学のスポーツ選手を技能レベルに応じて数段階に分類し、16PFで性格検査を行った研究があります。この研究の結果は、粘り強さ、外向性、集団依存性の因子と技能のレベルに相関がありました。しかし、これらの結果から得られた、個人間の技能のばらつきの統計的な説明率は29%でした。このことから、性格はスポーツにおける成功と関係はあるかもしれませんが、そのほかの要因の方が関わりが大きいと考えられます。
しかし、これらの研究においても、このような結果が一貫して確認できていません。性格特性の測定からプロのアイスホッケー選手選手が予選会で選抜に通るかどうかを予測しようとした研究がありますが、性格と選抜の結果との間には何の関係もなかった、という結果でした。
以上のように、特性論の立場からのスポーツ心理学における性格の研究について述べましたが、全体的に一貫した研究結果は得られていません。また、結果が出ている研究もありますが、これらの研究結果はスポーツにおいては応用が利きにくいと言えます。なぜなら、スポーツのパフォーマンスと性格との間に相関を発見して、スポーツに望ましい性格を把握できたとしても、既存の性格を望ましい性格に変化させることはとても難しいことだからです。
また、特性論は性格は持続的で安定していると考える立場ですが、本当にそう言えるとは考えられません。状況によって私たちの行動や考えは大きく変化するからです。たとえば、一人だけの時とほかの人と一緒にいる時、仲のいい人と一緒のときと目上の人と一緒のとき、などなど容易に想像できます。またスポーツにおいても、普段の練習のときと試合の時を比較しても、ヒトのふるまいが一定であるとは言えないでしょう。
次回は、状況を重視する状況依存主義の立場について書こうと思います。
今回書くのは、特性論から考えたスポーツにおける性格です。特性論とは、簡単にいえば性格は遺伝によって決定されるものであり、ヒトの行動は主に生物学的な要因によって影響されるという理論です。変化することがない遺伝子によって決定されることから、そのヒトの性格は持続的で安定している、また、個人間の性格の差は遺伝子が異なることによって存在するということになります。
特性論で有名なものとしては、アイゼンクの理論があります。これは、ヒトの性格は外向性の因子と神経質傾向の因子の2つだけで説明できる、という理論です。外向性とは活発性と社交性と衝動性の程度を表す性質であり、神経症傾向とは情緒の安定性を表す性質をいいます。どうして活発性と社交性と衝動性が外向性という1つの因子にまとめられているかというと、これらの3つには相関性があることが因子分析によってわかっているからです。これは、社交性が高い人は活発性も衝動性も高いということです。後の研究から、アイゼンクは精神病傾向という因子(頑固さ、優柔不断さ)を付け足し、性格は3つの因子で説明できる、としています。これらの3つの因子の測定はEPQ(アイゼンク人格検査)という質問紙による性格検査によって行われます。
もう一つ有名なものは、キャッテルの理論があります。キャッテルは、性格を完全に説明するには3つの因子だけでは足りないと考え、因子分析によって16の因子を特定しました。アイゼンクのERIと同様に、これらの因子を測定するための16PFという性格検査があります。
この2つの理論はヒトの性格すべてを説明するための理論ですが、性格の一側面だけに着目した理論(領域限定理論)も数多くあります。
スポーツ心理学では、これらの理論の立場からスポーツ競技者と非競技者、また、優秀な選手とそうでない選手との間の性格の違いなどについての研究がおこなわれてきました。
競技者と非競技者の性格の違いでは、EPQにおいて競技者は外向性と精神病傾向が高いという結果が得られたものや、16PFにおいて競技者は独立心と客観的の因子が高く、不安の因子が低いという結果が得られているものがあります。しかし、これらの結果を支持しない研究も多くあり、一貫した研究結果は得られていません。競技者と非競技者との性格の違いはないと言ってもいいのではないかと思います。
優秀な選手とそうでない選手との性格の違いについては、アメリカの大学のスポーツ選手を技能レベルに応じて数段階に分類し、16PFで性格検査を行った研究があります。この研究の結果は、粘り強さ、外向性、集団依存性の因子と技能のレベルに相関がありました。しかし、これらの結果から得られた、個人間の技能のばらつきの統計的な説明率は29%でした。このことから、性格はスポーツにおける成功と関係はあるかもしれませんが、そのほかの要因の方が関わりが大きいと考えられます。
しかし、これらの研究においても、このような結果が一貫して確認できていません。性格特性の測定からプロのアイスホッケー選手選手が予選会で選抜に通るかどうかを予測しようとした研究がありますが、性格と選抜の結果との間には何の関係もなかった、という結果でした。
以上のように、特性論の立場からのスポーツ心理学における性格の研究について述べましたが、全体的に一貫した研究結果は得られていません。また、結果が出ている研究もありますが、これらの研究結果はスポーツにおいては応用が利きにくいと言えます。なぜなら、スポーツのパフォーマンスと性格との間に相関を発見して、スポーツに望ましい性格を把握できたとしても、既存の性格を望ましい性格に変化させることはとても難しいことだからです。
また、特性論は性格は持続的で安定していると考える立場ですが、本当にそう言えるとは考えられません。状況によって私たちの行動や考えは大きく変化するからです。たとえば、一人だけの時とほかの人と一緒にいる時、仲のいい人と一緒のときと目上の人と一緒のとき、などなど容易に想像できます。またスポーツにおいても、普段の練習のときと試合の時を比較しても、ヒトのふるまいが一定であるとは言えないでしょう。
次回は、状況を重視する状況依存主義の立場について書こうと思います。